
シングルマザーの皆さん、子どもの養育費、払ってもらえていますか?
「きちんと決めたのに払ってもらえない」「元夫と連絡が取れない」など、養育費を払ってもらえず、困っている女性は多くいらっしゃいます。
なんと、養育費を受け取っている人は母子家庭全体の2割程度と言われています。
養育費は子どものための大切なお金。子どもを育てている以上、当然に受け取る権利があるものです。払ってもらえない場合でも泣き寝入りせず、きちんと請求しましょう。
今回は、養育費の強制執行にかかる弁護士費用と自分で手続きする方法をご紹介します。
目次
養育費の強制施行をするためには?3つのチェックポイント!
1.養育費の債務名義をもっているか?
相手が養育費を支払わない場合、強制執行して払わせるという方法があります。強制執行とは、養育費をもらう側が裁判所に申し立て、養育費を支払う側の財産から強制的にお金を回収する制度です。なお、お金を支払わせるために相手の財産を確保することを差押えと言います。
強制執行を行うためには、「債務名義」と呼ばれる書類が必要になります。たとえ相手が養育費を支払ってくれなくても、債務名義がなければいきなり強制執行をすることはできません。養育費の強制執行の際に、債務名義となり得る書類としては、以下のようなものが考えられます。
公正証書
公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらう書面です。離婚する際、養育費の支払いについてお互いが合意した内容を公正証書にしている場合には、不払いがあった段階で、公正証書を債務名義として強制執行することができます。
調停調書
家庭裁判所の調停で離婚が成立した場合には、調停調書が作成されます。調停調書に養育費の支払いについて記載されていれば、調停調書が債務名義になります。
審判書
家庭裁判所で調停が成立しなかったときに、裁判所の職権で審判が出され、審判により離婚が成立するケースがあります。この場合には審判書が出されますが、審判書に養育費の支払いについて書かれていれば、審判書を債務名義にすることができます。
判決書
調停や審判で離婚が成立せず、裁判で離婚判決が出された場合には、判決書を債務名義にして強制執行が可能です。
和解調書
裁判になったけれど、判決が出される前に双方が歩み寄り、裁判所において和解が成立した場合には、和解調書が作成されます。この場合には、和解調書が債務名義になります。
2.元夫の現住所を知っているか?
裁判所に強制執行を申し立てる際には、相手方(※申し立てる相手)の現住所を記載しなければなりません。強制執行を申し立てたら、裁判所から相手方に差押命令が送達(※郵送などで送る手続きのこと)されますが、もし住所が変わっているような場合には差押命令が届かず、手続きがスムーズに進まなくなります。
3.元夫の財産を知っているか?
養育費を回収するためには相手方の財産を特定して差押えしますから、元夫が持っている財産を知っておく必要があります。たとえば、元夫が不動産や車を持っている場合もあると思いますが、不動産や車の差押えは手続きが複雑なうえに手続き費用も高額になりますから、養育費の回収手段としては現実的ではありません。
養育費の強制執行では、通常、給料や預金の差押え(債権差押え)を行います。「元夫は財産なんて持ってない」という場合でも、会社勤めなら給料はもらっているはずです。給料をもらう権利(=債権)も財産ですから、差押えができるのです。同様に、預金も元夫が金融機関に対して持っている債権になりますから、差押えが可能です。
なお、給料の差押えをするためには、元夫の勤務先を知っておかなければなりません。もし離婚した当時と勤務先が変わっており、どこに勤めているかがわからなければ、強制執行をするのは困難になってしまいます。また、預金の差押えをする場合には、相手方が預金を持っている金融機関や支店名を知っておく必要があります。
養育費の強制施行を弁護士に依頼する場合
養育費の強制執行を弁護士に依頼することはできる?
養育費の強制執行は自分でする以外に、専門家に依頼することもできます。養育費の強制執行を依頼できる専門家は弁護士のみになります。弁護士に依頼すれば、代理人として申立書を作成、提出してもらえるだけでなく、裁判所との連絡も含めてすべての手続きを代理してもらうことが可能です。
養育費の強制執行にかかる弁護士費用はどのくらい?
養育費の強制執行を弁護士に依頼する場合には、着手金として5~10万円程度がかかります。さらに、回収できた金額の10%程度の報酬を支払う必要がありあす。
弁護士費用は元夫に負担してもらえるの?
養育費の強制執行では、不払いになっている養育費のほかに、執行費用として手続きにかかった費用も回収することができます。しかし、執行費用に含めることができるのは申立書の際に支払った収入印紙代や必要書類の取り寄せ等にかかった費用のみになり、弁護士費用は回収することができません。つまり、弁護士費用については元夫に払わせることはできず、自分で負担しなければならないことになります。
養育費<弁護士費用になるリスク
養育費の支払い額は、毎月数万円程度であることが多いと思います。そのため、強制執行を弁護士に依頼すると、金額によっては回収できる額よりも弁護士費用の方が高くなってしまい、手元に残らないということもあり得ます。養育費の強制執行を行うなら、こうしたリスクを考慮したうえで手続きする必要があります。
養育費の強制執行を自分でする場合の方法と費用
1.公証役場に公正証書を持参する
強制執行を申し立てるには、債務名義に「債権者は,債務者に対し,この公正証書によって強制執行をすることができる。」という「執行文」が付されていることが要件になります。執行文は申請しなければ付与されません。債務名義が公正証書である場合には、強制執行の手続きをする前に、公証役場に公正証書を持って行き、執行文を付与してもらう必要があります。
なお、債務名義が調停調書等の裁判所で作成された書面である場合には、裁判所に対して執行文の付与を申請することになります。
2.必要な書類を準備する
債権差押えの手続きを行うには、上記の執行文の付いた債務名義以外に、下記のような書類が必要になりますので、これを準備します。
なお、債権差押えの手続きの当事者は、以下のように呼ばれます。
- 債権者…申立人(養育費を払ってもらう人)
- 債務者…相手方(養育費を支払う義務がある人。通常は元夫。)
- 第三債務者…債務者に対して債務を持っている人や会社。給与差押えの場合には給与を支払う会社等。預金の差押えの場合には金融機関。
送達証明書
強制執行をする前提として、債務名義が債務者に届いていなければなりませんから、債務者へ送達を行った旨の証明書が必要になります。
債務名義が公正証書の場合、公正証書作成時に送達の手続きを行っていれば、そのときにもらった送達証明書を使います。送達の手続きがまだの場合には、強制執行前に公証役場に送達の申し立てを行い、送達完了後に送達証明書を取得します。
債務名義が調停調書等裁判所で作られた書面の場合には、既に送達の手続きは完了しているはずですから、送達証明書を裁判所に申請して取得します。
代表者事項証明書
第三債務者が株式会社等の法人である場合には、その会社の代表者事項証明書(登記簿謄本)が必要になります。
戸籍謄本
離婚届を出す前に公正証書を作成し、離婚後旧姓に戻った場合には、公正証書に記載されている氏名と現在の氏名が異なることになります。そのため、つながりがわかる戸籍謄本が必要になります。
住民票(又は戸籍の附票)
公正証書に記載されている当事者の住所と現住所が異なる場合には、つながりのわかる住民票等が必要になります。
3.債権差し押さえ命令申立書を作成する
申立書の書式は、裁判所のホームページからもダウンロードできますが、書式例を参考にパソコンで作成してもかまいません。申立書には、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録を添付します。
4.裁判所に債権差し押さえの申し立てをする
債権差押命令申立書は、相手方(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てることになります。申立ての際には、申立費用として4000円分の収入印紙と、各裁判所で指定された郵便切手(予納郵券)を提出します。なお、申立書は裁判所の窓口に持参して提出するほか、郵送での提出も可能です。
5.債権差し押さえ命令送達の確認をする
申立書が受理されたら、裁判所から債務者と第三債務者宛に差押命令が送達されます。送達が完了したら、送達通知書が債権者のところに届きます。
6.取り立て完了届を提出する
差押命令が送達されたら、差押えした金額については、第三債務者から直接支払ってもらうことになりますから、自分で第三債務者に連絡して、支払い方法について相談しなければなりません。第三債務者の支払いを受けて無事養育費を回収できたら、取立完了届を裁判所に提出します。
養育費の強制執行の注意点
勤務先に連絡がいくことで元夫の立場が悪くなる
養育費の強制執行で元夫の給与の差押えをする場合には、元夫の勤務先に連絡がいくことになります。そうなると、勤務先での元夫の立場が悪くなってしまうことが多く、最悪の場合、元夫が勤務先を辞めなければならないこともあり得ます。元夫が会社を辞めてしまえば、給料も入って来なくなりますから、養育費の回収もできません。転職しても次の勤務先を調べるのは困難ですから、差押えも難しくなってしまいます。養育費の強制執行では、差押えを行うことで、逆にそれ以降の養育費の回収ができなくなってしまうリスクもあります。
1回の差し押さえで全額回収できない場合もある
養育費の強制執行では、相手方の給与の2分の1までを差押えすることができます。さらに、毎回手続きをしなくても、一度の手続きで滞納分だけでなく将来の分も差押えが可能になっています。
なお、相手方の給与が少ない場合には、1ヶ月分の給与から回収できる額が少なくなってしまいますから、全額回収するまでに時間がかかってしまうことになります。
養育費の強制執行に挑むために…
逃げる場合は追い続けるしかない
元夫に転職癖がある場合、給与の差押えをすると、すぐに会社を変わって逃げてしまうなどということもあります。せっかく給与差押えをしても、元夫が転職してしまえば、また一から手続きをしなければなりません。転職先は前の会社や役所等に聞いてもまず教えてもらえませんから、探偵を使うなどしなければならなくなります。
根気よく続ける精神力が必要
給与差押えをすれば、元夫の勤務先と直接話をしなければならないなど、わずらわしいことも多くなります。また、差押えをしたことで元夫との関係がさらに悪化し、嫌がらせを受けるようなことも考えられます。どんなことがあっても、子どものためと思って乗り切る覚悟がなければ、養育費の強制執行を乗り切ることは困難です。
養育費の強制執行の相談がしたいときは?
養育費を支払ってもらえず、強制執行を考えている場合には、弁護士に相談することができます。弁護士に相談すれば、強制執行して養育費が回収できる見込みについてアドバイスをもらえます。また、弁護士に手続きを依頼した場合には、相手の現住所を調べてもらったり、金融機関に照会をかけて預金口座の有無を調べてもらったりすることも可能です。強制執行に着手しなくても、弁護士に間に入ってもらって協議することで、円満解決できるケースもあります。
弁護士事務所の中には、離婚や養育費については初回無料で相談を受け付けてくれるところもあります。また、収入等の要件をみたせば、法テラス(日本司法支援センター)でも無料の弁護士相談が受けられます。なお、有料相談の場合には、相談料は30分5000円程度が相場です。養育費の支払いを受けられず困っている場合には、一度弁護士に相談してみることを検討しましょう。
養育費の強制執行が出来ない場合は?
公正証書などの債務名義がない場合
債務名義がない場合には、いきなり強制執行をすることはできませんから、元夫に直接養育費を請求し、話し合いで解決する必要があります。話し合いでも解決しない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることができます。
公正証書を作成する
元夫と養育費について話し合い、毎月の支払いについて合意ができたなら、その内容を公証役場へ行って公正証書にしておきましょう。公正証書は債務名義になりますから、それ以降、養育費の支払いがなかったときに、強制執行が可能になります。
養育費を求める請求調停を起こす
養育費の支払いについて元夫と話し合いができない場合や、話し合っても合意ができない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てるという方法があります。調停が成立すれば、決まった内容を調停調書にしてくれますから、それ以降は調停調書をもとに強制執行が可能です。なお、養育費請求調停では、話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判となり、裁判所の職権で養育費の支払いについて決まることになります。審判があった場合には、審判書をもとに強制執行ができるようになります。
まとめ
養育費の強制執行を弁護士に依頼すると、回収できる額よりも弁護士費用の方が上回ってしまうリスクもあります。強制執行の手続きを自分ですることもできますが、元夫が会社を辞めてしまい、取るものも取れなくなってしまう可能性もあります。
債務名義を持っている場合でも、すぐに強制執行せず、話し合いや調停で解決した方が良い場合もあります。どのような選択が良いのかわからない場合には、弁護士に相談してみましょう。
お子様のためにも、養育費が受け取れる環境を作りましょう!