
子どもを連れて離婚した女性の方は、元夫に養育費を払ってもらうように、離婚の際に取り決めをしていることが多いと思います。
ところで、シングルマザーの間は継続して養育費を受け取ることができますが、子どもを連れて再婚した場合には、再婚相手の収入がありますから、元夫に養育費を支払ってもらえるかどうかが気になります。
果たして、元夫には養育費を支払う義務があるのでしょうか?それとも、養育費は受け取れなくなるのでしょうか?
養育費は子どものためのお金ですから、とても気になりますよね。
そこで、今回は、再婚後の養育費は免除されるのか?元夫の支払い義務はどうなるのか?について説明します。
目次
【再婚後の養育費】免除・減額のポイントは”養子縁組”
再婚後子供の扶養義務者は誰なのか?
離婚すると夫婦は他人になりますが、親子間の関係は変わりません。子どもを引き取らなかった親も、子どもの親としての法律上の義務を負います。民法上、親子間には扶養義務がありますから、離れている親も、子どもを扶養するために養育費を支払う義務があります。
女性が子どもを連れて再婚し、再婚相手と一緒に暮らすようになった場合には、子どもにとっては新しい父親ができたと言える状況です。そうなると、子どもの扶養義務者は誰になるのかという疑問が出てくると思います。
女性が子連れ再婚した場合には、再婚相手と子どもが養子縁組しているかどうかで、子どもの扶養義務者が変わってきます。養子縁組とは、法律上の親子関係を生じさせる手続きになります。
養子縁組をしていない場合
再婚相手が子どもと養子縁組していない場合には、再婚相手と子どもの間には法律上の親子関係はありません。子どもの扶養義務を持つ父親は元夫だけですから、再婚しても元夫の養育費の支払い義務には基本的には影響がないことになります。
養子縁組をした場合
再婚相手が子どもと養子縁組した場合には、再婚相手と子どもとの間に法律上の親子関係ができます。再婚相手は子どもの養父ということになり、実父と同様の扶養義務を負うことになります。ただし、子どもと一緒に暮らしている方の扶養義務が優先しますから、実父の養育費は免除・減額されることがあります。
元夫の扶養義務は一生消えることはない!
親の結婚・離婚に関係なく、実の親子関係というのは一生続きます。再婚しても元夫の扶養義務が完全になくなるわけではありません。再婚後も、養育費が足りないようであれば、元夫に請求することができます。また、再婚により元夫の養育費を一旦免除した場合でも、もし再婚相手と離婚して養子縁組も解消することになった場合には、元夫の養育費支払い義務が復活することになります。
再婚後の養育費が免除・減額される場合とは?
再婚しても元夫と子どもとは変わらず親子ですから、再婚によって当然に元夫の養育費が免除されたり減額されたりするわけではありません。ですが、たとえ離婚の際に養育費の取り決めをしていても、元夫の養育費が免除・減額される場合というのもあります。
民法では、「扶養をすべき者もしくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度もしくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」(第880条)と定められています。つまり、養育費の取り決めにかかわらず、「事情の変更」があったと判断されるような状況なら、裁判所は養育費の減額等を認めることがあるということです。
再婚により次に該当する場合には、事情の変更があったとされ、元夫の養育費の免除や減額の要求が認められる可能性があります。
双方の収入を比較したら元夫の方が少ない
再婚相手と元夫の収入を比べ、再婚相手の方が収入がかなり多く、経済的に余裕があるような状況なら、元夫の養育費支払い義務は免除や減額になる可能性が高いと言えます。
元夫の扶養者が増えた
元夫の方も再婚し、新たな扶養家族ができた場合には、養育費を支払う余裕がなくなってしまいます。この場合には、養育費の免除や減額も受け入れざるを得ないでしょう。
元夫の収入が大幅に減った
養育費の額は、支払う側の年収によって決まるのが原則です。転職により元夫の収入が大幅に減ってしまった場合には、養育費の免除や減額もやむを得ないでしょう。
元夫が職を失った・働けなくなってしまった
元夫が失業したり病気やケガで働けなくなったりした場合には、収入がなくなってしまいますから、養育費を払ってもらうわけにもいかなくなります。養育費の免除や減額にも応じなければならないでしょう。
再婚後元夫から養育費の免除・減額の要求があったときは?
再婚を知った元夫から養育費の免除・減額の要求があった場合はどうしたらよいのでしょうか?
元夫の要求を必ず飲まなければならないというわけではありませんが、かといって拒否はできません。
そこで、養育費の免除・減額の要求があった場合の対応についてご紹介します。
養育費の取り決めについて確認
まず、離婚時にお互いが再婚した場合の養育費をどうするかの取り決めをしていないか確認しましょう。再婚した場合には減額や免除という形で取り決めしていたのなら、約束ですから基本的には従わなければなりません。ただし、この場合でも現実に養育費が足りないようであれば、払ってもらえる可能性はあります。
子供にかかるお金を提示
子どもがまだ小さい場合には、これから教育費がどんどんかかるようになります。元夫に経済的な余裕があるようなら、子どもに必要なお金は払ってもらうべきでしょう。この場合には、子どもにかかるお金を具体的に計算したうえで元夫に提示し、足りない分については引き続き払ってもらえるよう交渉しましょう。
相手の要求に納得できない場合は調停に
元夫から養育費の免除や減額の申し入れがあったけれどどうにも納得できず、話し合いでも解決しない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。再婚後でも養育費が足りないようであれば、養育費請求調停(または養育費増額請求調停)の申し立てができますから、裁判所で話し合って解決を目指しましょう。
再婚による養育費の免除・減額調停の流れ
再婚後の養育費の額をめぐって争いになった場合には、家庭裁判所に調停申し立てをすることができます。なお、元夫側から申し立てる場合には「養育費減額請求」調停になりますが、養育費をもらう側が申し立てる場合には「養育費請求」または「養育費増額請求」調停ということになります。
1.調停申し立て
養育費請求調停は、相手方が住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に申し立てします。申立書に戸籍謄本を添付し、収入印紙1200円と各裁判所で定められている郵便切手と一緒に提出します。
2.調停
調停期日が設定され、当事者双方が家庭裁判所に呼び出されます。調停では直接相手と顔を合わせて話をすることはありません。双方が交代で調停室に入り、調停委員(男女1名ずつ)に自分の言い分を聞いてもらいます。調停委員は内容を整理しつつ、必要に応じて相手方にこちらの言い分を伝えてながら、意見の調整を行ってくれます。
3.調停終了
1回目の調停で話がまとまらなければ、第2回、第3回と順次期日が設定され、話し合いを進めていくことになります。話し合いがまとまれば調停成立となり、話し合いが決裂すれば調停は不成立となります。
調停成立の場合
調停が成立した場合には、家庭裁判所で調停調書という書面を作成します。調停調書作成期日には、当事者双方が同席して顔を合わせることになります。裁判官が当事者双方に内容に間違いがないかを確認し、調停調書を作成します。
調停不成立の場合
養育費の調停では、調停不成立の場合、自動的に審判手続きに移行します。審判では、裁判所の職権で養育費の支払いについて判断が下されます。なお、審判では、審判書という書面が作成されます。
再婚による養育費の免除・減額審判の流れ
1.調停不成立から審判へ移行
家庭裁判所での養育費の調停が不成立になった場合には、不成立のまま終了するのではなく、自動的に審判に移行します。審判とは、当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官の行った調査結果などの資料にもとづき、裁判官が判断を決定する手続きになります。
2.審判手続き
家庭裁判所の審判が出された後、どちらも不服を申し立てずに2週間が経過すれば、その審判が確定します。審判が確定すれば、審判書をもとに強制執行することが可能になります。
3.不服がある場合は高等裁判所に申し立て
家庭裁判所が出した審判に不服がある場合、審判の告知を受けたときから2週間以内であれば、「即時抗告」という不服申立ての手続きができます。なお、即時抗告の抗告状は審判をした家庭裁判所に提出しますが、審理は高等裁判所で行われます。
即時抗告審とは
高等裁判所が即時抗告に理由があると判断した場合には、家庭裁判所の行った審判は取り消されます。この場合には、原則として、高等裁判所が審判に代わる裁判を行うことになります。一方、高等裁判所が即時抗告には理由がないと判断した場合には、家庭裁判所の行った審判が確定することになります。
再婚後の養育費を決める場合の注意点
子連れで再婚することになった場合、子どもの実父である元夫との間で、再婚後の養育費の額について決め直した方が良いでしょう。この場合には、以下のような点に注意しておく必要があります。
口約束はしない
お金の支払いに関しては、口約束はトラブルのもとになります。養育費について約束した内容は、必ず書面にしておきましょう。きちんとした契約書を作っておくにこしたことはありませんが、どうしても無理な場合には、相手に一筆書いてもらうだけでも、何かあったときの証拠になります。
公正証書を作る
養育費についての取り決めは、できれば公証役場で公正証書にしておきましょう。公正証書は公証人が作成する公的な文書で、公正証書に金銭の支払いについて書いた場合には、それが強制力を持ちます。つまり、養育費を約束どおり支払ってもらえない場合には、公正証書にもとづき強制執行することも可能になるということです。
なお、調停や審判等の裁判所の手続きで養育費の支払いについて決まった場合には、調停調書や審判書にもとづき強制執行することができますから、公正証書を作る必要はありません。
再婚後、元夫が勝手に養育費を停止したら?
再婚をきっかけに、養育費を勝手に停止されてしまう場合があります。
しかし、基本的に養育費は勝手に停止することはできません。
では、その場合はどう対応したらよいのでしょうか?
公正証書・調停調書がある場合
公正証書や調停調書は債務名義と呼ばれ、それにもとづき裁判所に強制執行の申し立てができます。養育費の支払いについて記載された公正証書や調停調書がある場合には、強制執行をして養育費を回収することを考えましょう。
強制執行では、元夫の財産を差し押さえる必要があります。元夫の勤務先がわかっている場合には給与の差押えをし、養育費を回収することが可能です。また、元夫の預金口座がわかっていれば、預金口座の差押えをし、そこから養育費を回収できる場合もあります。
公正証書・調停調書がない場合
養育費の取り決めについて、口約束で決めている場合や、合意書はあるけれど公正証書にしていない場合には、いきなり強制執行をすることはできません。元夫に養育費を払ってもらえるよう交渉してみましょう。
もし元夫が養育費を引き続き払ってくれることになったなら、その後の養育費を確保できるよう、養育費の取り決めを公正証書にしておきましょう。
元夫と養育費について話し合いができない場合や、養育費の支払いに応じてくれない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立て、調停での解決を目指しましょう。家庭裁判所に申し立てをすれば、調停で決着がつかなくても、審判で決めてもらえます。
今からでも遅くない!公正証書の作成
養育費について元夫と話し合って決めた内容は、その時点で公正証書にしておくのがいちばんです。養育費の取り決めをしているけれど、きちんとした書面にしていないという人は、今からでも公正証書を作成しておきましょう。
公正証書を作成するときには、双方が公証役場に出頭し、公証人の前で合意した内容を確認する必要があります。公正証書を作成する際には、養育費の額に応じて2~5万円程度の手数料がかかりますが、公正証書を作っておけば、それ以降約束どおり養育費を払ってもらえなかったときに、強制執行ができるというメリットがあります。元夫の給料を差押えし、勤務先から養育費の分を直接払ってもらうことができますから、確実に養育費を回収できる可能性が高くなります。
まとめ
女性が子連れ再婚した場合、元夫の養育費支払い義務は当然になくなるわけではありません。ただし、再婚相手と子どもが養子縁組した場合には、再婚相手にも扶養義務が発生しますから、元夫の養育費を減額・免除しなければならないこともあります。
離婚の際に再婚後の養育費について取り決めしていない場合には、再婚が決まったら元夫と今後の養育費について話し合うのがおすすめです。話し合いで合意ができれば公正証書を作成しておきましょう。もし話し合いで合意ができなければ、調停を申し立てて解決しましょう。