
赤ちゃんとの授乳タイム。
幸せそうに母乳を飲んでいる我が子の姿を見るのは至福のときです。
しかし、1歳を過ぎると気になるのが「母乳はいつごろまで?」ということです。
「赤ちゃんの精神的安定だから母乳育児は長く続けるべき」という意見もありますし、反対に「甘えや虫歯のことを考えると早めに断乳させるべき」という声なども聞こえてきます。
いったい、本当のところはどうなのでしょう。
今回は、「母乳育児はいつまでするのが正しいのか」とその理由についてご紹介します。
母乳はいつまであげるのがいいの?
母乳育児をしているお母さんにとって気がかりなのが“母乳はいつまであげるのがいいのか”という点です。
「卒乳」と「断乳」の違いは?
母乳育児をやめるという意味で「卒乳」や「断乳」などの言葉が使われますよね。どちらも母乳育児をやめるという意味では同じですが母乳とのお別れの仕方が違ってきます。
「卒乳」とは、少しずつ授乳回数を減らしていき、赤ちゃんが自らおっぱいを飲まなくなることをいいます。「断乳」とは、お母さんの意志によって母乳育児をやめさせることをいいます。
最近では、「おっぱいを断つ」という表現は好ましくないという意味を込めて、どちらも「卒乳」と呼ぶケースが増えてきているようです。しかし、ここでは「卒乳」と「断乳」を区別したいと思います。
卒乳するまで待つ
断乳ではなく、「卒乳」が良いという人は、母乳は赤ちゃんにとって精神的安定が大きいので母乳を無理にやめさせる必要はない、という思いがあります。また、母乳は栄養バランスに優れているので赤ちゃんの健康のためにもできるだけ長く続けた方がいいという考えもあるようです。
断乳する
「断乳」は、お母さんが“母乳はやめさせた方がいい”という意志を持ち、母乳育児をストップさせる方法です。断乳を考える理由としてあげられるのが「赤ちゃんの食事の進みが悪いから」「仕事への復帰」「お母さんが継続的に薬を飲む場合」などがあげられます。
「卒乳」と「断乳」結局、どちらがいいのか?
卒乳、断乳、どちらがいいのでしょうか?
答えは、どちらを選んでもいいです。どちらでも正しいからです。
赤ちゃんの精神安定のためにできるだけ自然な卒乳ができるまで待つという選択もありですし、仕事や薬の継続などによって断乳を考える場合も悪いことでは決してありません。どちらの理由ももっともですし、どちらを選択しても間違いではないのです。
ただ、どちらのケースもメリットとデメリットがあります。そのメリットとデメリットを照らし合わせながら、自分はどちらのケースがいいのか、選んでみてはいかがでしょうか。
母乳をやめるメリット
母乳育児を終了した場合のメリットを挙げてみます。
授乳時の痛みがなくなる
お母さんと赤ちゃんにとって幸せを感じられるとき、それが授乳時です。しかし、授乳の際、おっぱいの痛みに悩んでいる人もいるようです。赤ちゃんが吸う力のコントロールがうまくいかずに強い力でおっぱいを吸ったり、乳歯が生えてくるときに歯がムズムズしてつい乳首を噛んでしまったり…そのような場合、お母さんの乳首が切れてしまうケースも珍しくありません。しかし、母乳育児をやめると乳首が傷つくこともなくなります。
お母さん以外に預けられる
母乳育児中、お母さんと赤ちゃんは常に一緒にいなければなりません。しかし、母乳育児をやめれば、お母さん以外の人でもミルクや離乳食を作って与えることができます。その分、お母さんは、美容院へ行ったり、買い物へでかけたり、一人で過ごす時間ができるのです。
食べ物に注意する必要がなくなる
お母さんが食べたものは母乳を通して赤ちゃんの体にも移っていきます。そのため、授乳中は、お母さんの食事にも制限が出てきたりします。たとえば、アルコールが飲めなかったり、辛い物など刺激のある食べ物を控えたり…ということです。
また、お母さんが食べたものがアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)として母乳に出てきて、赤ちゃんにアレルギー反応が起こる場合があるため、お母さんは授乳中の食べ物に注意する必要があります。しかし、母乳育児が終われば、お母さんは好きなものを好きなだけ食べることができます。
夜の授乳で起きる必要がなくなる
母乳は消化吸収がよいので赤ちゃんは3時間ごとにすぐにお腹がすきます。そのため、夜寝ているときもお腹すくたびにオギャーオギャーを夜泣きします。赤ちゃんはお腹がすいて眠れないのです。夜泣きのたびに起こされて母乳をあげる毎日。朝がきても寝不足で辛い。そんな日々ともお別れです。お母さんもしっかりと睡眠を確保することができます。
薬を飲めるようになる
母乳育児をしているお母さんは、風邪や体調不良のとき、簡単に薬を飲めません。母乳を通して赤ちゃんの方に薬の成分が移ってしまうからです。母乳育児を終了すれば、市販の薬を気にせずに服用することができます。
母乳をやめるデメリット
母乳をやめるメリットを以下にまとめてみました。
食事での栄養摂取をしなければならない
母乳には、たんぱく質を始め、乳糖、ビタミンやミネラル、脂肪分、炭水化物、酵素など、赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素がたっぷりと含まれています。しかも、配合バランスも非常に良いという特徴があります。
つまり、母乳は赤ちゃんの栄養にとってパーフェクトに近い食べ物ということです。そんな母乳をやめることで気になるのが、離乳食の栄養バランスです。
“1日に何回、どのようなものを食べさせたらいいのか”“栄養面は十分に足りているか”など赤ちゃんが栄養不足にならない離乳食メニューを日々考えなくてはならなくなります。
ミルク代がかかるようになる
母乳はお母さんのおっぱいから出るものなのでほぼタダといってもいいでしょう。
(お母さんの食事内容に気を配る必要はありますが)
しかし、当然ながらミルクはお金がかかります。メーカーによってミルク代は違ってきますが、1缶だいたい1,600~2,000円くらいと考えていいでしょう。これで1週間もつくらいです。これを1ヶ月にすると6,500~8,000円くらいがミルク代としてかかってきます。
もちろん、離乳食の食べる割合や赤ちゃんの食欲によって変わってきますが、ミルク代も意外とかかるということには間違いないです。
卒乳のメリットとデメリット
赤ちゃんが十分に満足するまで授乳をし、自然な形でおっぱいにサヨナラができる卒乳のメリットとデメリットをまとめてみました。
卒乳のメリット
- 納得した形で母乳をやめられる(お母さん、赤ちゃんともに)
- 赤ちゃんの健康面に良い
育児本によっては『赤ちゃんが望めば母乳を吸わせてあげてほしい』という母乳育児を推薦する内容が書かれてあったりします。無理に断乳を行った場合、お母さんの気持ちの中で「十分に母乳を与えなかった」という罪悪感が後々残ってしまう場合があります。赤ちゃんが自然に卒乳できれば、赤ちゃんだけでなく、お母さんとしてもそのような罪悪感は起こりません。
また、母乳を長く続けていると赤ちゃん両方の健康に良いという研究結果も報告されています。
- 母乳の成分は赤ちゃんが1歳を過ぎても変化を続け、優れた栄養素として赤ちゃんの免疫機能強化に繋がる(アメリカ小児科学会編「母乳育児のすべて」より)
- 生涯飲む母乳の摂取量が多いほど、リンパ腫、呼吸器感染症、下痢などのリスクが減る(本郷寛子さんの「母乳と環境」より)
無理におっぱいをやめさせない卒乳という形であれば、母乳を飲む期間や量ともに断乳よりも多いはずです。
そのため、健康面からすれば赤ちゃんに良い影響を与えてくれることが期待されるでしょう。
卒乳のデメリット
- いつ卒乳できるか、見通しが立たない
- お母さんの負担がその分長引く
卒乳のデメリットは、いつ卒乳できるかわからないというところです。赤ちゃんのペースに合わせるわけですから、赤ちゃんが眠くなったとき、悲しくなったとき、いくつになってもおっぱいを欲しがる子も中にはいるでしょう。
夜中におっぱいを求めてきたら、眠くても対応しなくてはなりませんし、授乳しやすい服装に気を配らなくてはならないのでお母さんとしては大変です。「保育園に通ってもおっぱいを欲しがったらどうしよう」というお母さん側の焦りも出てきます。
断乳のメリットとデメリット
断乳をすることによって、赤ちゃんとお母さんにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
断乳のメリット
- ママの負担が減る
- 生理が来て妊娠しやすい体に
- 夜泣きがなく朝までぐっすり
- 離乳食が進む
授乳中は、お母さんにさまざまな制限がかかります。食事面からすれば栄養バランスを考えたメニューが基本。刺激の強い辛い物やアルコールやカフェインなどは控えなければなりません。また、外出時でもおっぱいが与えられるような服装、夜の授乳による睡眠不足など。赤ちゃんを人に預けて自分だけ長時間外出はできません。しかし、断乳すれば、そういった負担から解放されます。
断乳することで生理再開が早まったりします。これは「次の妊娠可能」と脳内ホルモンが判断するからです。兄弟間の齢差を小さくしたい場合は、断乳した方が有利です。
断乳したら「夜泣きも治まり、朝までぐっすり」とか「離乳食をもりもりと食べる」などの報告があります。母乳は非常に消化がいいのですぐにお腹がすいてしまいます。だから夜でもお腹がすいて眠れないのです。しかし、離乳食をもりもりと食べるようになると満腹感から朝まで夜泣きせずにぐっすり寝てくれます。
断乳のデメリット
- 子供の情緒が不安定になる
- 乳腺炎など、おっぱいトラブルが起こる
母乳は大変優れた栄養素ある食べ物です。それと同じくらい赤ちゃんの情緒を安定させる心の栄養素でもあります。赤ちゃんの様子を見ながらベストタイミングで断乳したつもりでも赤ちゃんの性格によっては情緒が不安定となり、泣いたり、ぐずったりが長引くことがあります。
また、お母さんのおっぱいがガチガチと張り、強い痛みに襲われます。ひどい場合は乳腺炎などのトラブルを抱えてしまうことも珍しくありません。
母乳をやめるタイミングは?
「卒乳」と「断乳」それぞれのタイミングはいつがベストなのでしょうか?
卒乳のタイミング
卒乳は、何歳になるのか、期限が見えません。しかし、おおよその目安として1歳半を過ぎてから徐々に授乳回数を減らしていくと良いでしょう。
1歳半くらいになると“離乳食完了期”といわれ食事もそれなりに摂れるようになります。そして、この頃はお母さんが話す言葉もかなり理解できるようになっています。
普通の食事を摂らずにおっぱい三昧の子供には、「おっぱいはご飯を食べてから」とか「外ではおっぱいはダメね」といった具合にいつまでもだらだらとおっぱいを求めないよう、子供との約束や決まりごとをつくっていきながら、徐々に授乳回数を減らし、卒乳に持っていくようにしたいものです。
断乳のタイミング
脱乳は、お母さんも子供も精神的に試練です。いい加減な気持ちで断乳して、仮に断乳に失敗した場合、赤ちゃんはおっぱいから離れる辛さを経験してしまっている分、余計におっぱいに執着してしまうので、余計に断乳しにくくなるでしょう。ですから、断乳すると決めたら最後まで強い意志を持ってチャレンジすべきです。
まずは、数日間、子供におっぱいを与えないと決めます。この期間はお母さん一人だけだと失敗に終わる可能性が高いので、旦那さんや自分の親(または旦那さんの親)の協力が必要となります。
季節としては、春や秋など過ごしやすい季節がベストでしょう。夏は暑くてイライラしやすいですし、冬は寒くて人肌恋しくなるので不向きです。
そして、日頃から「そろそろおっぱいとバイバイになるけど○○ちゃんもお姉ちゃんになったから大丈夫だね」とか「春になったらおっぱいとはさよならなんだよ」と子どもに言い聞かせておくことがポイントです。
卒乳・断乳のよくある疑問!
「母乳を長く飲ませると甘えん坊になるの?」「断乳すると愛情不足になるの?」
巷で言われている母乳に関わる噂、本当のところどうなのでしょうか?
母乳育児が長くなると甘えん坊になるの?
周囲の人から「母乳育児が長引くと甘えん坊になるよ」とか「おっぱいに執着がでちゃうから分からないうちに断乳したら」なんてアドバイスをされた経験ありませんか?
しかし、母乳育児が長いからといって甘えん坊になるとは限りません。逆に子供が十分に納得いくまでおっぱいを飲み、自分から離れていく方が、情緒が安定し、後々自立心が高まるという意見もあるようです。
母乳は虫歯になるの?
「母乳を長く飲むと虫歯になりやすい」という話を聞いて不安になったことはありませんか?特に気になるのが夜間の授乳(母乳を飲みながら寝る)という点です。
しかし、母乳の糖分は虫歯になりにくいともいわれています。母乳そのものが虫歯の原因になるわけではありません。しかし、気を付けたいのが離乳食やお菓子の残りカスです。食べ物の残りカスと母乳が口の中に残っていると虫歯へのリスクがかなり高まります。
離乳食を食べたら歯磨きをする、スナックや甘いお菓子は控える、など気を付けることで虫歯予防に繋がります。もちろん、歯が生えていない赤ちゃんであれば虫歯になることはありません。
断乳は愛情不足になるって本当?
最近では、自然に赤ちゃんがおっぱいとさよならするまで待つという卒乳スタイルがもてはやされています。そんな中で断乳を決断するということで後ろめたさを感じるお母さんもいるかと思います。
おっぱいに変わる親子のコミュニケーション方法はいくらでもあります。抱っこ、一緒に食事をする、赤ちゃんとの会話、お母さんの笑顔などです。断乳したあとにしっかりと赤ちゃんに愛情を注いでいれば、断乳で愛情不足になることは決してないでしょう。
まとめ
「母乳をいつまで続けたらいいか」母乳育児をしているお母さんであれば、いつかは悩むテーマです。
大切なのは、お母さんがそろそろ卒乳(断乳)しようと思ったその時が、卒乳(断乳)のタイミングということです。卒乳、断乳、それぞれに良し悪しあります。そのメリットとデメリットを照らし合わせながら「卒乳」「断乳」の時期を決めてみてはいかがでしょうか?